AIで業務アプリを内製できる時代に — 「第二のVBA属人化」を防ぐ進め方

AIに聞きながら社内で業務アプリが作れる時代になりました。歓迎すべき変化ですが、構造はExcelマクロの属人化とよく似ています。新しいリスクと、ルールを決めて活かす方法を解説します。

「ChatGPTに聞きながら、社内のパソコンに詳しい人が業務アプリを作ってみた」——そんな話を耳にすることが増えました。プログラミング経験がなくても、AIと対話しながら動くものが作れてしまう時代です。これ自体は歓迎すべき変化だと思っています。ただ、私たちはこの光景に強い既視感があります。Excelマクロ(VBA)です。

AI内製で「できてしまう」ようになったこと

  • 簡単な集計ツールや変換ツール(手作業で30分かかっていた処理がボタン1つに)
  • 入力フォームとスプレッドシートをつなぐ小さな仕組み
  • 社内限定の簡易的なWebアプリ(一覧・検索・登録程度なら形になる)

「現場の困りごとを、現場の人が自分で解決する」のは業務改善の理想形のひとつです。試す前から禁止するのはもったいない。問題は、その先にあります。

既視感の正体: 「第二のVBA属人化」

かつてExcelに詳しい社員が業務の合間に作ったマクロは、便利に使われるうちに業務の基盤になり、作者の退職とともにブラックボックスになりました(VBA属人化の記事で詳しく書いています)。AI内製アプリは、これと同じ道をたどる条件が揃っています。

  • 業務の合間に「個人の工夫」として生まれる(計画も予算もない)
  • ドキュメントがない(AIとの対話履歴が実質の仕様書)
  • 会社がその存在を把握していない
  • 便利なので、気づいたら業務がそれに依存している

しかも厄介なことに、AI内製にはVBAと決定的に違う点があります。作った本人すらコードを読めていないことがあるのです。VBAの作者は少なくとも自分のコードを理解していました。「AIに作ってもらった」場合、その前提すら成り立ちません。

VBAになかった新しいリスク

さらに、Webアプリは「Excelファイル」よりも影響範囲が広がります。

リスク何が起きうるか
セキュリティ認証の不備や公開設定のミスで、顧客データが外部から見える状態に。社内ファイルだったVBAでは起きなかった種類の事故
データの扱い顧客情報や取引データを、規程のないままAIサービスに貼り付けてしまう
運用の宙づりサーバー・ドメイン・バックアップを誰が管理しているのか、誰も知らない
直せない日が来る「AIに聞けば直せる」範囲を超えた不具合が出たとき、対処できる人がいない

禁止ではなく、ルールを決めて活かす

では全面禁止すべきかというと、それは現場の改善意欲を潰すだけで、隠れて作られるものが増えるだけだと思います。現実的なのは、範囲と把握のルールを決めることです。

  • やってよい範囲を決める: 社内限定で使う/顧客情報・金額などの重要データを扱わない/止まっても業務が止まらないもの、など
  • 会社が把握する: 誰が・何を・どの業務で使っているかの一覧を作る(VBAの棚卸しと同じやり方で十分)
  • 「卒業基準」を決めておく: 複数人が依存し始めた・重要データを扱い始めた時点で、プロのレビューや作り直しを検討する

Point

「内製で試して、効果が確認できたものをプロが作り直す」は、実はとても合理的な分業です。内製アプリは出来の良し悪しにかかわらず、「この業務はシステム化の価値がある」という証明になっています。プロトタイプ代わりとしては最高の検証材料です。

まとめ

  • AI内製は歓迎すべき変化。ただし構造はVBA属人化と同じで、進行はより速い
  • VBAになかったリスク(セキュリティ・データの扱い・運用の宙づり)に注意
  • 禁止ではなく、「やってよい範囲」「会社による把握」「卒業基準」をルール化して活かす

内製とプロ依頼の線引きに迷ったら、ノーコードとスクラッチ開発の使い分けも判断の参考になるはずです。

「社内でAIに作らせてみたものがあるが、このまま使い続けてよいか不安」——そんな状態からのご相談も歓迎です(レビュー・引き継ぎ・作り直し、いずれも対応します)。まずは1業務だけ相談するからどうぞ。